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鹿児島地方裁判所 昭和45年(わ)10号 決定 1970年6月23日

被告人 甲野太郎

昭二五・一〇・二五生 当時調理師見習

決  定

(本籍、住居、氏名略)

主文

本件を鹿児島家庭裁判所に移送する。

理由

被告人は、調理師平間悦次(当時二二年)と共謀のうえ、金品を強取しようと企て、昭和四四年一〇月二〇日午前三時三〇分頃勤め先である大分県別府市元町一三番地四号「小政寿司」店こと首藤寅夫方に押し入り、就寝中の同人の娘首藤弘己(当時二七年)及び首藤照己(当時二五年)の両名に対し、平間において所携の刺身包丁を振り回し「大きな声を出すと刺すぞ。今女を殺してきた。一人殺すのも二人殺すのも同じだ。金を出せ。」などと申し向けて脅迫し、被告人において同女ら両名の手足を予め止宿先アパートから持出してきた紐で縛りあげ、タオルで同女らの口に猿ぐつわをかませるなどの暴行を加えて同女らの反抗を抑圧したうえ右首藤寅夫所有の現金約八万円を強取し、その際右平間の暴行により右首藤弘己に対し加療約二週間を要する左示指切創の傷害を負わせたものである。

右の事実は当公判廷で取調べた各証拠によつて明らかであり、被告人の所為は刑法第六〇条、第二四〇条前段、第二三六条第一項に該当する。

そこで以下被告人の処遇について考えてみる。

一、本件犯行は、まず共犯者平間が企てたもので、被告人が犯行に引張りこまれたことが明らかである。しかし、被告人は最初平間から強盗の話を持ちかけられた際勤めができなくなるからと言つて断つたが、平間が被告人を脅しているように見せかけて行動するということから加担し、犯行の際にも被告人は平間に脅されて仕方なくやつているように装おつたり、被害者宅に押入るときに積極的にガラスを押破つたりなどし、犯行後も真相が明らかになるまでの数日間を無実を装つて被害者宅の店で働いていた仮装工作については犯情悪質と考えられないではないが、反面被告人は本件犯行により強取した金品により些さかも利得していないのであつて、犯行自体は強盗致傷という凶悪犯罪ではあるが、平間から被害者が受けた傷も幸いに軽微な程度にとどまり、強取した金品も大方被害者に還付されているのであつて、被害者もまた、すくなくとも被告人との関係では、必ずしも厳重処罰を求めているものとは窺われない。

(証人甲野ノエ)

二、そこで、被告人は少年であるから、その資質環境についてみるのに、被告人は、農業兼大工をしている父甲野久行と母ノエの三男として生れ、五人兄弟の末つ子として育ち、小中学校での学業成績は全般的に劣つていたとはいえ、格別に非行歴もなく昭和四一年三月に義務教育を終了後、父に奨められて調理士として身を立てる決意をし、別府市にいる親戚の者の紹介で同年八月一五日別府国際観光会館内レストラン「ニユー別府」に板場見習として就職し、昭和四四年九月二九日右レストランを辞めるまでの間も、真面目に働き、同僚との交際も普通で家庭とも比較的よく連絡を取つていた。同年一〇月一日同じ親戚の者の奨めで同人の勤め先である「小政寿司」に転職したが、同所で職場の先輩である本件共犯者平間と知合つた。しかし、被告人の家族には前科のある者もなく、被告人には自己中心的な、単純な思慮に欠ける面はあるが、根深い非行性があることまでは窺われない。

三、そうすると、以上の諸点を彼此綜合してみると、被告人に対しては必ずしも刑事処分に付して長期の収容矯正処遇を行う必要はなく、それより緩和な保護処分に付するのが相当である。

よつて、少年法第五五条により本件を鹿児島家庭裁判所に移送することにして主文のとおり決定する。

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